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アンドレア・カヴァッラーリ(作曲家・美術家/ウィリアム・ケントリッジ氏 プロデューサー)

2020.01.24

去る日曜日、私は日本人サウンドアーティスト、evalaのプライベート・スタジオに招かれた。evalaはここ東京渋谷でもっとも面白いビルの一つに美しいプライベート・スタジオを構えている。私たちは初対面だったが、会った瞬間に、私を迎える彼の親切さ、礼儀正しさ、そして繊細さに感銘を受けた。はじめに体験したのは、無響室に設えた近年の作品の一つ、「Anechoic Sphere- Hearing Things」。3つのメトロノームが放つカチカチという音が、3つの小さなマイクによって拾われ、増幅・修正され、電子的に操作され、また重ね合わせられる。そう聞くと、ハンガリーの作曲家、リゲティ・ジェルジュの「100台のメトロノームのためのポエム・サンフォニック」(Poème Symphonique for 100 metronomes)にインスパイアされた、面白いスコアを作る作品を想像するかもしれないが、そうではなくこの上なく上質で素晴らしい芸術的価値をもち、ユニークな言語を展開する非常に独創的な作品であった。暗闇の中で無響室に閉じ込められているということも手伝ってか、村上春樹の小説でしばしば言及される、暗くて深い秘密の「井戸」に、たちどころに私を導く非常に示唆的な音楽。その「井戸」は、パラレルワールドへと続いているのだ。しかし、evalaの音楽はさらに、私たちの深部にある、殆どの人がアクセス不能な「意識」と「無意識」が最終的に出会う空間へと私を誘う。おそらくそこへは、各々がシャーマニックで探索的な旅を経て、トランス状態に到達することでのみ接続できる。驚くことではないが、トランスという言葉はラテン語の「transīre」に由来し、「乗り越える」、「通過する」、つまりは、どこか別の領域に行くことを意味する。この作品の体験が、evalaの最新作であるインビジブル・シネマ、「Sea, See, Sheーまだ見ぬ君へ」の一部プレビューの準備となった。この作品は、1月24日から26日まで東京のスパイラルホールで公開される。鑑賞者は、暗闇が映像に取って代わったインビジブル・シネマ(見えないシネマ)を体験することになる。思考を解放し、我々の想像力を通してイメージを再現するよう促すために仕掛けられる、真っ暗な空間…非常に魅力的なアイディアだ。これは、サウンドだけで構成される映画の上映だが、膨大な数のスピーカーと複雑な電子システムを使用した3次元立体音響で構成される。楽曲が見事に構成されているだけではなく、evalaは世界を旅する中でフィールドレコーディングも行なっている。ともかく、これがインビジブル・シネマについて述べられる全てである!我々の耳は音楽を聴くが、それらの音に触発されて魅惑的なイメージを脳内で作り出すことは我々自身に委ねられている。そして、自分では思いもよらなかったものを目にするのだ!evalaの作品は、示唆に富み、刺激的で、非常に引き込まれるものだ。一言でいえば、「必見」!