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TimeTone
StandBy
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for Expo 2025 Osaka
evala+ItsukiDoi
2025/4/13/Sunday
-10/13/Monday
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『Time Tone』は、大阪・関西会場に設置された約600台の防災スピーカーを使った音響作品です。サウンドアーティストevalaと研究者・音楽家の土井樹によるこの作品は、日の出と日没に基づく時刻に響き、気象や場所に応じて異なる音の表情を生み出します。
0.イントロ
大阪・関西万博の会場内には、自然災害など非常時の避難指示を行うための緊急放送システムとして、約600台のスピーカーが設置されている。本作品は、この非常用インフラをそのまま利用して制作された音響作品である。
この作品は、日の出と日没を基準とする「不定時法」に準拠した特定の時刻にだけ聴くことができる。そのため音響作品であると同時に、来場者に時刻を知らせる「時報」の役割も担っている。
この作品は、日の出と日没を基準とする「不定時法」に準拠した特定の時刻にだけ聴くことができる。そのため音響作品であると同時に、来場者に時刻を知らせる「時報」の役割も担っている。
1.時報
時報とは、音や光、文字などを用いて人々に時刻を伝える仕組みである。
現代では個々人が時計を所持しているため、時報がなければ生活が成立しないというわけではない。しかし、時計が一般に普及していなかった時代には、時報は共同体の時間意識を共有し、重要な節目を告げるものとして機能していた。
歴史的に見ると、時報は宗教や神事と深く結びついてきた。たとえば中世ヨーロッパの修道院では、祈祷や労働の時刻を厳格に管理するため、鐘による時報が用いられた。当初は人の手で鐘を鳴らしていたが、ルネサンス期に機械式時計が発明されると時報の自動化が進み、各地の教会や修道院に設置されるようになった。ヨーロッパでの機械式時計の普及はキリスト教会によって推進されたとも言われている。
日本においても、671年に天智天皇が「漏刻(ろうこく)」と呼ばれる水時計を使い、鐘や太鼓によって十二時辰に基づく正確な時刻を知らせたことが、時報の始まりとされる。その後、律令制のもとでは時刻の公的な管理を担当していた陰陽寮が中務省に属していたことからも、「時報」が神事に関わる重要な役目を持っていたと考えられる。
現代社会では、一日を均等に分割した24時間制にもとづく「定時法」が広く浸透している。これに対し、機械式時計が登場する以前は、日の出と日没に基づく「不定時法」が一般的だった。不定時法では、昼夜の長さが季節によって変化するため、時間の単位も一定ではなく、自然の動きに合わせて調整されていた。
西洋では、ルネサンス期の機械式時計の発明と普及によって定時法への移行が進んだ。15〜16世紀には市庁舎や市場といった公共の場に塔時計が設置され、市民生活は定時法にもとづく秩序へと組み込まれていった。これに伴い、人々の時間に対する認識も変化し、年間を通じて一定の時刻に従う生活様式が一般化した。やがて時間は労働や生産活動と結びつき、商人層が台頭する都市社会では正確に管理されるべき「資源」としての側面が強まっていった。
一方、日本では長きにわたり不定時法が主流であった。たとえば江戸時代、人々は日の出と日没を六等分して算出される「十二時辰(じゅうにししん)」に従って生活していた。定時法が導入されたのは、鎖国が解かれ西洋文化の流入が始まった明治時代以降である。
本作品の音が流れる時刻は、この十二時辰に準拠している。そのため、(西洋式の)定時法の観点から見ると毎日少しずつ音が鳴り響く時刻がずれていく。
現代では個々人が時計を所持しているため、時報がなければ生活が成立しないというわけではない。しかし、時計が一般に普及していなかった時代には、時報は共同体の時間意識を共有し、重要な節目を告げるものとして機能していた。
歴史的に見ると、時報は宗教や神事と深く結びついてきた。たとえば中世ヨーロッパの修道院では、祈祷や労働の時刻を厳格に管理するため、鐘による時報が用いられた。当初は人の手で鐘を鳴らしていたが、ルネサンス期に機械式時計が発明されると時報の自動化が進み、各地の教会や修道院に設置されるようになった。ヨーロッパでの機械式時計の普及はキリスト教会によって推進されたとも言われている。
日本においても、671年に天智天皇が「漏刻(ろうこく)」と呼ばれる水時計を使い、鐘や太鼓によって十二時辰に基づく正確な時刻を知らせたことが、時報の始まりとされる。その後、律令制のもとでは時刻の公的な管理を担当していた陰陽寮が中務省に属していたことからも、「時報」が神事に関わる重要な役目を持っていたと考えられる。
現代社会では、一日を均等に分割した24時間制にもとづく「定時法」が広く浸透している。これに対し、機械式時計が登場する以前は、日の出と日没に基づく「不定時法」が一般的だった。不定時法では、昼夜の長さが季節によって変化するため、時間の単位も一定ではなく、自然の動きに合わせて調整されていた。
西洋では、ルネサンス期の機械式時計の発明と普及によって定時法への移行が進んだ。15〜16世紀には市庁舎や市場といった公共の場に塔時計が設置され、市民生活は定時法にもとづく秩序へと組み込まれていった。これに伴い、人々の時間に対する認識も変化し、年間を通じて一定の時刻に従う生活様式が一般化した。やがて時間は労働や生産活動と結びつき、商人層が台頭する都市社会では正確に管理されるべき「資源」としての側面が強まっていった。
一方、日本では長きにわたり不定時法が主流であった。たとえば江戸時代、人々は日の出と日没を六等分して算出される「十二時辰(じゅうにししん)」に従って生活していた。定時法が導入されたのは、鎖国が解かれ西洋文化の流入が始まった明治時代以降である。
本作品の音が流れる時刻は、この十二時辰に準拠している。そのため、(西洋式の)定時法の観点から見ると毎日少しずつ音が鳴り響く時刻がずれていく。
2.音について
本作品の主となる音は、サウンドアーティストevalaが主宰する「See by Your Ears」で作品のはじまりにシグネチャーとして用いられている、減衰の長い正弦波(サイン波)を基調としたシグナルである。この音に加えて、時報が鳴る瞬間の気象情報をもとに変調を加えられた立ち上がりの鋭い音と深い残響が重ねられ、全体の響きを形成している。
音の変調には、筆者(土井)が開発した大気状態をサウンド変調に変換するプログラムが用いられている。気象情報としては気温や湿度といった基本的な値から風速、風向、太陽光の強さ、そしてそれらの基本データから導かれるいくつかの気象状態の指標によって音が変調される。
例えば、音の速度は温度に依存する関数となっているため、気温にあわせて音の遅延時間が決定される。また、気温や湿度が極めて高い状態では、基本となるシグナル音も含めて再生中に音程が変化し、空間がねじれたような音響が生まれる。このような仕組みになっているため、時報としての基本的な音は同じでありながら、各回ごとに表情が変わる。
音の変調には、筆者(土井)が開発した大気状態をサウンド変調に変換するプログラムが用いられている。気象情報としては気温や湿度といった基本的な値から風速、風向、太陽光の強さ、そしてそれらの基本データから導かれるいくつかの気象状態の指標によって音が変調される。
例えば、音の速度は温度に依存する関数となっているため、気温にあわせて音の遅延時間が決定される。また、気温や湿度が極めて高い状態では、基本となるシグナル音も含めて再生中に音程が変化し、空間がねじれたような音響が生まれる。このような仕組みになっているため、時報としての基本的な音は同じでありながら、各回ごとに表情が変わる。
3.遅さ
万博の会場はとても広い。広い敷地にたくさんのスピーカーが点在しているため、仮に同時刻に音を再生しても、音速の限界によって耳に届くタイミングにずれが生じる。
空気中の音速は気温に依存し、一般的に15℃で約340m/sとされる。たとえば会場の象徴的な建造物である「大屋根」は直径がおよそ615mあるため、その両端にあるスピーカーから同時に音を鳴らしても、片端の音が聞こえるまで最大で1.8秒ほどかかる計算になる。
通常、このような遅延や反響は、元の音源を正しく聴衆に届けられない音響の乱れと見なされる場合もあるが、本作品においては会場全体を巻き込み、場所ごとに異なる響きへと変換している。つまり再生される音がたとえシンプルなシグナルであったとしても、音が空気中を伝わる「遅さ」のおかげで、音は土地に空間化され、複雑なひと塊の音響となる。
空気中の音速は気温に依存し、一般的に15℃で約340m/sとされる。たとえば会場の象徴的な建造物である「大屋根」は直径がおよそ615mあるため、その両端にあるスピーカーから同時に音を鳴らしても、片端の音が聞こえるまで最大で1.8秒ほどかかる計算になる。
通常、このような遅延や反響は、元の音源を正しく聴衆に届けられない音響の乱れと見なされる場合もあるが、本作品においては会場全体を巻き込み、場所ごとに異なる響きへと変換している。つまり再生される音がたとえシンプルなシグナルであったとしても、音が空気中を伝わる「遅さ」のおかげで、音は土地に空間化され、複雑なひと塊の音響となる。
4.気象/マッピング
ところで、これまで気象情報をパラメータとして用いたアート作品は数多く作られてきた。しかし、そうした作品における難しさは、気象情報と表現を結びつける「マッピング」に必然性がなく、どこか恣意性が生じてしまうことである。例えば風向によってメロディーが変わるとして、そこに必然性をもたせることは難しい。筆者自身も、これまで幾度となく気象情報などの「データ」を音のパラメータにマッピングする作品に関わってきたが、いつもどこか後ろめたさを感じてきた。しかし「風が吹くと木の葉が揺れ、その揺れがざわざわと音を立てる」という現象を考えるとき、これは果たしてマッピングと呼ばれるものなのか。
イギリスの社会人類学者 Tim Ingold は、論文「Against Soundscape (2007)」において、音と光とは、われわれが自らを見いだし、その内で行動し移動する「媒質」であると述べている。そして、音や光のような流動的媒質(fluxes of the medium)の日常的表現こそが「天気(weather)」である、という論を展開している。
この議論を踏まえると、音は流動的媒質という点で天気と同じ次元にある現象であり、マッピングによって主従関係を設定するようなものではないのかもしれない。そもそも「気象」と「音」とを別々のものとみなすからこそマッピングの問題が生じるのであって、このふたつは初めから同じなのかもしれない。
イギリスの社会人類学者 Tim Ingold は、論文「Against Soundscape (2007)」において、音と光とは、われわれが自らを見いだし、その内で行動し移動する「媒質」であると述べている。そして、音や光のような流動的媒質(fluxes of the medium)の日常的表現こそが「天気(weather)」である、という論を展開している。
この議論を踏まえると、音は流動的媒質という点で天気と同じ次元にある現象であり、マッピングによって主従関係を設定するようなものではないのかもしれない。そもそも「気象」と「音」とを別々のものとみなすからこそマッピングの問題が生じるのであって、このふたつは初めから同じなのかもしれない。
5.Sweet Spot
本作品は、会場のどこで聞くかによって聴取体験が大きく変わる。スピーカーは非常時の放送が確実に届くように配置されており、音楽用に最適化された設計ではない。加えて、建築物による予測不能な反響、パビリオンから流れる多種多様な音、無数の来場者の存在など、制作側が立ち入ることのできない、制御できない要素が多分に存在する。
その結果、聴く場所やタイミングによって印象が大きく変わり、会場内からは作品の全貌を一望できないまま響きだけが広がっていく。作品の全貌を捉えるには誰もいない日に会場の上空にでも行かない限り難しい。
つまり大阪万博の会場にはこの作品の理想的な聴取位置(スイートスポット)は存在しないとも言えるし、そもそもスイートスポットなどというものは最初から存在しないとも言える。
そして、この作品に用いられているスピーカーたちは、有事の際には即座に避難情報を伝える社会インフラへと姿を戻す。
『Time Tone』について
text: 土井 樹
その結果、聴く場所やタイミングによって印象が大きく変わり、会場内からは作品の全貌を一望できないまま響きだけが広がっていく。作品の全貌を捉えるには誰もいない日に会場の上空にでも行かない限り難しい。
つまり大阪万博の会場にはこの作品の理想的な聴取位置(スイートスポット)は存在しないとも言えるし、そもそもスイートスポットなどというものは最初から存在しないとも言える。
そして、この作品に用いられているスピーカーたちは、有事の際には即座に避難情報を伝える社会インフラへと姿を戻す。
『Time Tone』について
text: 土井 樹
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evala音楽家、サウンドアーティスト。
既存のフォーマットに依拠しない音響システムを駆使した独自の”空間的作曲”によって、先鋭的な作品を国内外で発表。2017年より、新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」を主宰し、聴覚に眠る潜在能力を覚醒させる没入体験を展開。無響室から広大な庭園、廃墟から公共空間、劇場に至るまで、多様な場でサウンドインスタレーションを発表し、文化庁メディア芸術祭やアルスエレクトロニカなど国内外で高い評価を得ている。主な個展に「evala 現われる場 消滅する像」(NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 2024年)など。 -
土井樹 /
Itsuki Doi
複雑系研究者、音楽家
株式会社 Alternative Machine シニアリサーチャー
社会性生物の群れの同期現象などをテーマに研究を行うとともに、 人工システムを含む「他者」が持つ固有の経験や感じ方を、その存在自身の立場から理解するための手段をテーマとして作品制作を行っている。主な展覧会に「ALTERNATIVE MACHINE」(2021年、WHITEHOUSE) 、「海の見方を忘れた」(2022年、Jinnan House)、「MONAURALS」(2023年、WHITEHOUSE)、「Harsh Listening」(2025年、LEESAYA)。主な音楽作品に『Peeling Blue』(CD、2017年)。 -
EXPO 2025
- 大阪・関西万博公式Webサイト
EXPO WORLDs
- 大阪・関西万博 OPEN DESIGN PROJECT
*evalaは万博会場の共創デザインプロジェクト「EXPO WORLDs」にて、7名の音楽家の一人としても参加しています。

